記憶に残る味を君に
記憶に残る味を君に。   ポット


雪に覆われていた道が元の色とタイルの模様を現し始めた今日この頃。
小狼は一人、商店街を歩いていた。
口の中には何もないというのに、何故か甘味が広がっているように感じる。
(ここまで記憶に残るとは…考えても無かったぞ。)
小狼は右手で口を覆い、少し頬を赤らめた。


先日、小狼はさくらからバレンタインのチョコレートを貰った。
手作りだというそれは、とても美味しく作られており、さくらの優しくて強い想いが込められているのが分かった。
その想いが強すぎたのだろうか、そのチョコレートの味が日が変わり続けた今でも口内に残っているような気がするのだ。

(口に物を含まない限り、口の中がこれで満ちているんだよな…。)
そんな事を考えながら、ふらふらと歩いていると、自分を呼ぶ声が向こうから聞こえてきた。
「あ、小狼君!」
「さ…さくら!?」
ぱたぱたと駆け寄り、幸せに満ちた笑顔を見せるさくらに、驚きを表情に表した小狼もすぐに同じような笑顔になる。
「買い物か?」
「ノートを買って、今帰るところ。小狼君は夕御飯の準備?」
小さな紙袋を見せながら質問を返すさくらに、小狼は「ああ。」と答えた。
すると、さくらはますます笑みを深め、楽しそうに話を続ける。
「小狼君って、やっぱり凄いね。毎日自分で料理をするんでしょ?わたし、小狼君の料理、凄く好きだよ。」
瞳を輝かせながら語るさくらに、小狼はぽかん、とした表情になってしまった。
「それは…嬉しいな。」
「本当に美味しいんだから。食べるとわたしは幸せになれるもん。」

先程よりも明るさを増したさくらの笑みに見とれながら、小狼は未だに口内に残るチョコレートの味を思い出した。

彼女からの想いが詰まったその味を自分が今でも覚えているように、ホワイトデーには彼女の記憶に色濃く残るような美味しいものを作って、想いを込めて送ろう。
密かな決意と共に、小狼は未だに笑顔でいるさくらに優しく微笑んだ。



 そして、ホワイトデーの日に、さくらは忘れる事の出来ない美味しいお菓子を食べたという。
 

<コメント>
ポットさんの『バレンタインデー&ホワイトデーリクエスト企画』で私がリクエストした小説です!ポットさん、リクエストに答えて下さって有り難うございます!(2011/02/16)

Top 頂いた物 Gallery Menu