わたしの生まれた日

わたしの生まれた日        ひがし

第4企画 テーマ・・・誕生日

あぁ。
今年もまたこの日がやってまいりましたわ。
9月3日。わたくしの誕生日が。

わたしの年代の女の子にとっては、誕生日は素直に喜ばしい日なのでしょう。
自分が一歩、大人に近づいた日。
家族や友人達に祝ってもらえる日。
本当に嬉しい日なのでしょう。

ですけど。

正直に言います。
わたしは自分の誕生日が好きではありませんでした。
この日が来ると思い知らされてしまうからです。
14年前の9月3日にわたしが生まれたことを。
XX年9月3日に大道寺知世が『女の子』としてこの世に生を受けたことを・・・・・・

誤解しないでください。
別に自分が女の子であることに不満があるわけではありません。
男の子になりたいと思っているわけでもありません。
今の世の中、女性であることが社会的に不利に働くようなことはないでしょう。
現にわたしの母は、女性の身でありながら多くの男性を顎でこき使う立場です。
女の子である自分自身に不満があるのとも違います。
自分で言うのもなんですが、人よりも優れた容姿に恵まれ、コーラス部でもソロを任されるほどの活躍をしております。
女の子として、人並み以上に充実した毎日を過ごしているという自負はあります。
繰り返しますが、わたしは『女の子』であることに不満を感じているのではないのです。
わたしが感じている不満。
それは。

「知世ちゃん!」

木之本桜。
わたしの親友。
世界でただ一人のカードキャプター。
地上最強の魔法使い。
そして。
わたしの『ただ一人の一番』の人。
誰よりも愛している女性。
その彼女と『同性』であること。
それがわたしの感じる不満の正体なのです。

世の中は理不尽ですわ。
こんなにも彼女を愛しているというのに。
わたし自身の魅力もわたしを取り巻く環境も、おそらくは世間一般の方々のそれを遥かに上回っているというのに。

『愛する人と同性である』

それだけのことで、想いを叶えることができないなんて。

小学生のころはまだ幸せでした。
男女の区別も恋も知らない幼いうちは、同性である方が親しくお付き合いすることができたからです。

『知世ちゃん、一緒に帰ろう!』
『知世ちゃんの声って本当にキレイだね』
『知世ちゃん、今日はね・・・・・・』
『知世ちゃん・・・・・・』

あの頃は本当に幸せでした。
まるで、彼女の全てをわたしが独占しているような、そんな錯覚に陥ることさえありました。
いえ、あの頃は本当にさくらちゃんをこの世で誰よりも深く占有していた、そんな自信もあります。
もちろん、人気者のさくらちゃんにはわたし以外にもたくさんのお友達がいらっしゃいました。
利佳ちゃん、奈緒子ちゃん、千春ちゃん。今でも仲良しなお友達が大勢いらっしゃいます。
藤隆さん、桃矢さんといった素敵な家族の方もおられます。
それでもなお、さくらちゃんの一番はわたし、そう思っていました。
どれほど仲がよくても利佳ちゃん達にとって、さくらちゃんはただのお友達。
ただ一人の一番の相手ではありません。
子供らしからぬ詮索癖のあるわたしには、利佳ちゃん、千春ちゃんには別の一番の人がいるのがわかっていました。
藤隆さんと桃矢さんは本当に素敵な方々で、さくらちゃんをとても大事にしておられます。
ですけど、やっぱり女の子にはご家族といっても殿方には相談しにくいこともございます。
そんな時、わたしはいつもさくらちゃんの相談相手になってさしあげました。

『ありがとう知世ちゃん。知世ちゃんのおかげで助かったよ』

お礼を言う彼女を見ながら、わたしは今、さくらちゃんを独占している・・・・・・そんな悦びに心が震えるのを感じたものでした。

『雪兎さんがね・・・・・・』
『今日の朝、雪兎さんと一緒に・・・・・・』

それは、さくらちゃんが月城さんのことを気にし出してからも同じです。
わたしには月城さんへのさくらちゃんの気持ちが『恋』ではなくて『憧れ』であることがわかっていたからです。
それに月城さんの一番がさくらちゃんではなく、桃矢さんであることにもわたしは気づいていました。

あぁ、神様。
白状します。わたしは悪い女の子です。
わたしはさくらちゃんから月城さんのことを相談される度に、親切に相談にのってあげるふりをしていました。
どれほど頑張ったところで月城さんはさくらちゃんを見てくれない、それがわかっていたのにです。
いつか、事実に打ちのめされたさくらちゃんがわたしを求めてくれる・・・・・・
そんなズルイことを期待していました。

さくらちゃんの恋など叶わなければいい。
自分だけがさくらちゃんを幸せにしてあげられる。他の誰かなどいらない。
さくらちゃんを応援しているかのように見せながら、その実、心の中では常にさくらちゃんを裏切っていたのです。
あぁ、本当に。わたしはなんてヒドイ女の子なんでしょうか。
そして、そんな薄汚い自分の心を知りながらも、この日々がいつまでも続けばいい、そう願っていたのです。
さくらちゃんの幸せではなく、自分だけの幸せが続けばいいと。

ですが。
ある日、そんなわたしの歪んだ悦びの日々に、遠く彼方の地から異分子が侵入してきました。

李小狼。

クロウ・カードの創造者、クロウ・リードの血に連なる男の子。
初めはさくらちゃんをただの競争相手としか見ていなかった李くんの視線に、熱いものがこもるようになるのにさほどの時間はかかりませんでした。
それに誰よりも早く気づいたのは、わたしが彼と同じ想いを秘めていたからでしょうか。
それでも、わたしはまだ彼がそれほどの脅威になるとは考えていませんでした。
クロウ・カードを巡る事件の中で、さくらちゃんの中で彼の存在が大きくなっていくのを認めながらも、決定的なものではないと侮っていました。
彼を応援する素振りを見せていたのも無論、フェイクです。
自分こそがさくらちゃんを誰よりも理解している・・・・・・それを彼に見せ付けて優越感に浸りたかっただけなのです。

しかし、そんなわたしの浅はかな考えはあの日、完膚なきまでに粉砕されてしまいました。
クロウ・リードの気配を追って夜の学校に侵入したあの日。
わたしは見てしまったのです。

『ありがとう小狼くん!』
『小狼・・・・・・くん?』
『うん! この前エレベーターに閉じ込められた時、小狼くんって呼んでいいって。で、わたしのことはさくらって呼んでくれるって』
『まぁ!』

あの時のさくらちゃんの笑顔。
何年もたった今でもハッキリと覚えています。
わたしに向けるものとも、月城さんに向けるものとも全く違う笑顔。
心の底から安心できるところを見つけた女の子だけが浮かべることのできる微笑み。
あの瞬間、わたしは自分の恋が完全に破れてしまったことを悟りました。
さくらちゃんの『一番の人』は李くんに決まってしまったのだと。
さくらちゃんも、李くんもご自分達では気づいていなかったみたいですけどね。
ふふっ、そんなところもよく似たお二人ですわ。
でも、そんな李くんだからこそさくらちゃんの『一番の人』になれたのでしょうか。
お互いを名前で呼び合うようになったさくらちゃんと李くんの仲は、どんどんと親密なものになっていきました。

あぁ、神様。これも白状いたします。
わたしはそんな李くんに嫉妬していました。
もしも、わたしが男の子だったらば・・・・・・
もしも、わたしに魔法が使えたならば・・・・・・
さくらちゃんの傍にいるのは李くんではなくてわたしだったはず・・・・・・
その思いに歯軋りしながら眠れぬ夜を過ごしたこともございました。
せめて、わたしが男の子だったら・・・・・・
お母様はなぜ、わたしを男の子に生んでくださらなかったのか・・・・・・
そうお母様を恨んでしまったこともありました。

でも、それも昔のことです。
今は違います。
今はもう、自分が男の子だったらよかったとは思っていません。
いえ、女の子に生まれて本当によかったと思っています。
だって、わかってしまったのですもの。
李くんがさくらちゃんの『一番の人』であるということの意味が。
李くんと一緒にいる時のさくらちゃんの「はにゃ~ん」を超えたうっとりとしたお顔。
李くんにだけ見せるさくらちゃんの微笑み。
これはもう、李くんが魔法を使えるからとか、クロウ・リードの血筋だからとかそういうことには関係ありません。
ただ

『木之本桜は李小狼を必要としている』

というだけなのです。
さくらちゃんという存在には李くんという存在が必要。ただそれだけのこと。
それをハッキリ理解してしまったからなのです。
仮に李くんがクロウ・リードとなんの関係もない魔法が使えないただの人であっても、さくらちゃんは李くんを選んだでしょう。

それを知ってしまった今は自分が女の子に生まれたことに本当に感謝しています。
だって、考えてみてください。
もしも、わたしが男の子に生まれていたらどうなったかを。
わたしが男の子であっても、さくらちゃんは間違いなく李くんを選びます。
その時、男の子のわたしは、さくらちゃんが自分を選んでくれなかったことに耐えられたでしょうか。おそらく無理です。
李くんとさくらちゃんを恨み、呪い、どんなことを仕出かしてしまうか想像もできません。
幸せなお二人を傍から祝福するなど不可能です。
かつて、男勝りな母が撫子さんと藤隆さんを祝福することができなかったように。
その結果、自分だけでなく、さくらちゃんも李くんも悲しませてしまったでしょう。

今、そうなっていないのはわたしが女の子だからです。
女の子だから・・・・・・さくらちゃんと同じ女の子に生まれたからこそ、恋が破れた今でもさくらちゃんの傍にいることができるのです。
さくらちゃんの傍でさくらちゃんと李くんの幸せを祝福することができるのです。
こうして・・・・・・

「ねえ、知世ちゃん」
「はい、なんでしょうか。さくらちゃん」

あぁ、神様。お母様。
わたしを女の子に生んでくださって本当にありがとうございます。
知世は今、とっても幸せです・・・・・・

END

<管理人コメント>

ひがしさんの投稿作品の知世ちゃんの誕生日話です!ひがしさん、素敵な小説の投稿ありがとうございます!(2010/8/29)

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